空白の一ヶ月〜ジェレミア襲来〜



ブリタニア王宮上空に突如として現れた機影に、王宮内の緊張が高まった。
見たこともないようなナイトメアが信じられないような猛スピードで近づいてくる。

「一体いつの間に現れたのだ!?なぜこんなに接近するまで気づかなかった!?レーダー班は何をしていたッ!!」
「そ、それがレーダーには反応がありません・・・ステルスを搭載した機体かと・・・」
「一体どこのナイトメアだ?」
「わかりません。初めて見るタイプの機体です」
「と、とにかく皇帝陛下にご報告を!!」
「はッ!」

情報が錯綜する王宮警備の制御室は今や大混乱に陥っていた。

「皇帝陛下」
「何事だ?騒々しい」

慌てた様子で報告に現れた警備兵を振り返ることもなく、ルルーシュはぼんやりと窓から見える空を眺めていた。
その切り取られた視界の先には見慣れたナイトメアの機影が見える。

「陛下、ここは危険です!どうか御避難を・・・」
「ああ、そうだな。ある意味もっとも危険な奴が現れた」
「は?陛下はあのナイトメアを御存知なので?」

尋ねられて、ルルーシュは警備兵を振り返り、ふっと笑みを浮かべた。






「ルルーシュ様!ジェレミア・ゴットバルトでございます!どうかお目通りを・・・お目通りをお許しください!!」

外部通信とオープンチャンネルを利用して、未確認のナイトメアから通信が入る。
通信内容には敵意がないことがはっきりと表れていた。

[皇帝陛下のお知り合いなのか?」
「いえ。まだ確認は取れていません!」
「では陛下はなんと・・・?」
「迎撃体勢を整えつつ、威嚇射撃をするようにとの御指示がありました」
「よし!それでは威嚇用意!」
「威嚇射撃準備完了!」
「撃てッ!」

発射されたミサイルは的確な位置に着弾し、見事に威嚇の意味を成している。
その様子をルルーシュは窓辺に佇みながらオペラグラスを通してのんびりと眺めていた。

「ジェレミアめ、やはり攻撃するつもりはないようだな?威嚇射撃と見抜いたか・・・」

愉快そうな皇帝を、警備兵はハラハラしながら見守っている。

「次は一斉射撃だ!できるだけ機体の左側を狙うように指示をしろ!」
「はッ!」

ジェレミアの死角が左にあることを知っているルルーシュはわざとその死角を狙うように指示をして、楽しそうな笑みを浮かべた。



息を吐く間もないほどの弾幕の嵐が次から次へとサザーランドジークへと降り注がれる。
しかもジェレミアの死角である左側だけを狙って撃ってくるそれは、間違いなくルルーシュの指示であることを示していた。

「ル、ルルーシュ様・・・何故!?」

如何なジェレミアでも防戦一方では防ぎようがない。
しかし、まさか自分の方から攻撃することもできず、終には撃墜されてしまう結果となった。
ドンと鈍い音が響き渡り、サザーランドジークがゆっくりと下降する。

「なんだ・・・意外とあっけなかったな」

ルルーシュは少しつまらなそうである。
この攻撃をジェレミアが見事に切り抜けることができたなら、次はフレイヤ弾でも発射してやろうかなどとルルーシュは物騒なことを考えていた。

「回収した機体はいかがいたしましょう?」
「そうだな・・・王宮に運び入れろ。それからパイロットは、多分無傷だろうからここへ丁重にお連れするように」
「し、しかし・・・」
「心配はない。乗っているのはジェレミア辺境伯だ」
「Yes,Your Majesty!」





「ルルーシュ様・・・あんまりです・・・」

警備兵に付き添われて、ルルーシュの前に連れてこられたジェレミアは半分泣きそうな顔をしていた。
警備の兵士を下がらせて、ジェレミアと二人きりになるとルルーシュは「まぁ座れ」と椅子を勧める。
しかしジェレミアはそれを辞して、ルルーシュの前に膝をついた。

「ルルーシュ様・・・」
「なんだ?なにか言いたそうな顔だな」

自分を置き去りにして一ヶ月以上も連絡すらよこさなかった主に、ジェレミアが言いたいことは山ほどある。
そのほとんどは愚痴に近かった。

「ルルーシュ様、なぜ私を置き去りにしたのですか?私は貴方が死んだと聞かされてどれだけ辛い想いをしたのか、ご存知ですか?」
「でも俺は生きているぞ?お前はそんな簡単に俺が死ぬ思ったのか?」

逆に問い返されて、ジェレミアは返答に困った。
その窮した顔にルルーシュの笑みがこぼれる。

「・・・馬鹿だなお前は」
「わ、私はッ!・・・そ、それに生きていらっしゃるのなら、どうして一ヶ月も連絡をくれなかったのですか?ルルーシュ様が皇帝におなりになられたと報道で知った時、私は・・・私は・・・」

ジェレミアの声はそれ以上言葉にならずに、嗚咽に変った。

「ジェレミア・・・すまなかった。枢木スザクを迎えに行かせたのだが、どうやら行き違いになったようだな?」
「・・・枢木、卿ですか?」
「ああ」

と、その時、部屋の扉が静かにノックされた。

「なんだ?そのままでいい報告だけしろ」

ルルーシュは部屋の扉を開けさせず、そのまま扉の向こうからの報告を促す。

「はッ!枢木スザク様がただいま抵抗する反乱貴族の鎮圧からお戻りになられました」
「・・・チッ」
「ル、ルルーシュ・・・さま?今さっきなんと仰られました?また私に嘘を吐きましたね!?」

ジェレミアは本気で怒っていた。

「この一ヶ月の間、私がどれほど貴方を心配したか・・・。それなのに貴方は私のことなどきっとお忘れになっていたのでしょう!?」
「いや・・・忘れていたわけでは・・・」
「ない、と、仰るのですか?」

ジェレミアの言う通り、はっきり言えばルルーシュは黒の騎士団に置き去りにしたジェレミアのことなどすっかり忘れていた。
しかし、ここで正直にそれを言ってしまってはまた話が拗れる。

「俺が信じられないのか?」

ジェレミアが押しに弱いことを知っていて、ルルーシュはわざと余裕の笑みを浮かべながら、優雅な仕草で脚を組み替えた。
その様子を、ジェレミアがうっとりと見つめている。

「ジェレミア?俺を信じてくれるよな?」」
「当然でございます!」

ジェレミアはまるで洗脳でもされたかのように、ルルーシュの色仕掛けに簡単に嵌ってくれる。
きっと質問の意図など彼の頭の中からは綺麗サッパリ消えているのだろう。
そんなジェレミアが、ルルーシュは堪らなく可愛かった。

ルルーシュは腰掛けていた椅子から立ち上がり、すっとジェレミアの前に右手を差し出した。
その手には白いハンカチーフが握られている。

「ルルーシュ様、これは・・・?」
「鼻血・・・出てるぞ・・・」